僕らは同じ体温で生きていける





、ほらほら、ちょっとこっち来いって」
銀ちゃんの家に遊びに行った時のこと。その日はとてもいい天気で、私たちはお昼を食べたあと、二人で居間のソファに座ってのんびりと、ごきげんですかを見ていたのだった。
「……なんで?」
銀ちゃんがこんなことを言い始めたら要注意だ。大体何か、良からぬことを企んでいるに違いないのだ。私は身構えて、次の攻撃に備えた。
「いいからいいから」
銀ちゃんは自分のソファのすぐ隣のスペースをポンポン叩きながら私を手招きする。
なんだ、一体何を考えているんだ。私は注意深く銀ちゃんを観察してみたものの、いつもの締まりのない顔しか見て取ることしかできなかった。
「そんな、取って喰うわけじゃねーんだから、来いってば」
怪しい。めちゃくちゃ怪しい。こんなことを言って、何もなかったことがない。取って喰われるかもしれない。
警戒を解かないままでいると、痺れを切らした銀ちゃんに捕まってしまった。
「ぎゃあぁぁぁ、変態! どこ触ってんのよ!」
「いって、こらちょっと暴れんなって。まだなんもしてねーだろ!」
「まだってことはこれからするんだ! いやー、どうにかされちゃう!」
「人聞きの悪いことを言うんじゃありません! いいからここ座れ!」
ソファに無理やり座らされ、押さえつけられる。この乱暴者、と銀ちゃんの頭をはたこうとした瞬間、あの特徴ある銀髪が消えた。
「……なにしてんの」
「なにって膝枕」
銀ちゃんは私の足をがっちりと抱え込んで、その頭を腿に乗せている。振り上げた手は、途中で行き場を無くしてしまて、私は仕方なしに銀ちゃんのふわふたした髪に掌を添えた。少し、青みがかかって見える銀髪は、猫の毛みたいに柔らかくて温かかった。
「膝枕したいって正直に言えばいいのに」
「うっせ。でもアレだな。肉がついてて、なかなか寝心地いいな――って、イデデデデ、ちょ、耳がもげる!」
「そんなに寝たいなら、もう起きてこなくても構わないよ?」
「なんだそれ、永眠しろってことか! すみません、もう言いません!」
手を離してやると、銀ちゃんの耳が真っ赤になっていた。暴力反対などと恨みがましく私を睨みつけてくるが、そんなの銀ちゃんの自業自得だと思う。
涙目の銀ちゃんが思いのほか可愛らしかったので、よしよし、と頭を撫でて肩の力を抜いてソファの背もたれに身を預けた。
「銀ちゃんってたまに甘えたがりになるよね」
「そんなことねーよ」
「心配しなくたって、私はどこにも行かないよ」
「そーかよ」
「銀ちゃんに仕事がなくても、家賃が払えなくても、ヒモみたいになっても側にいるから」
「……俺ってそんなふうに見える?」
不安になることなんてないよ、私は銀ちゃんが思ってる以上に銀ちゃんのことばっかり考えているから。調子に乗るからそんなことは言ってやれないけど。
テレビの天気予報が、明日も晴れだと言っている。明日は朝から洗濯して、できれば神楽ちゃんと銀ちゃんの布団も干してしまおう。銀ちゃんの髪みたいにふかふかして、温かい布団なら、きっといい夢が見られるに違いない。




この先たぶん死ぬまでずっと